灯火採集マナー集
灯火採集を始めるにあたって
一時のカブクワブームというものは既に去り、飼育者の数も減り昆虫販売市場も以前のような活況は見られなくなりましたが逆に言うと現在も続けている人こそ本当に好きな人と言えるのかも知れません。
また、以前よりは少ないながらも新規にこの趣味に嵌まる方もおられます。
昔は飼育のノウハウがありませんでしたので自分でカブクワを採集して一夏の飼育を楽しむものでした。
現在ではお金を出せばショップやオークションで手軽に好みのカブクワを入手できるので飼育からこの道に入り、やがて採集に進むパターンが多いようです。
ところが、カブクワブームが去って飼育者人口は減っても採集人口は増え続ける一方なのだそうです。
そこで問題になってくるのが常識やマナーをわきまえない採集行為で、全国的に採集を禁止する動きが増加していることです。
何故このような事態になってきたのか?。
それは昔と違い、採り方の情報がインターネット等を通じて簡単に入手できるようになったことから独学でこの道に入った人が多くなったこともその一因ではないかと思っています。
つまり、やり方だけを学んでやってはいけないことを学んでないからでは?ということです。
山菜採りひとつからして昔は親兄弟、先輩、師匠などから山を荒らさない採り方・・・根こそぎ採らない、株をを痛めない採り方を叩き込まれることから始まり、根絶やしにしかねない採り方をすると叱られたものでしょう。
マタギの世界でも同じでシカリ(頭領)の絶対の指示の元、親子連れは狩らない、増えすぎた場合以外~の時期の雌は狩らない、必要以上狩らないとか厳格な掟があったはずです。
昆虫採集にしても明文化されたものではないにしろ、かつて暗黙の了解としてのルールがあり、それを私も師や先輩方に教わりました。
そこにオオクワ採集では第一人者であるK氏からの全国標準としてのマナーを加えてそれを羅列してみます。
この問題の根底にある最大の暗部は人の欲です。
これは私の力如きでどうなるものでもありませんが、何もしないでいる訳にもいかず本欄を設けました。
この趣味が末永く健全に後世まで我々の心を癒やしてくれることを望みます。
カブクワの採集には幾つかの方法がありますが、本欄では青森で中心となっている採集方法である街灯などを回る街灯廻りとライトトラップに特化して編集してみます。
他の採集方法については別な機会に加筆するかも知れません。
【街灯廻りのタブー】
街灯廻りの採集は樹液採集に次ぐカブクワ採集の基本だと私は思っています。
樹液採集と街灯廻りでじっくりとその生態や習性などを観察して得た知識が後々物を言うと思うのです。
これらをじっくり学習してからライトトラップに進んだ人といきなりライトトラップから入った人では地力が違うと思います。
しかしながら、この街灯採集ですがご多分に漏れずLED化の波に押され、近未来にほぼ消滅することは間違い無いと思われます。
あと数年は楽しめるでしょうがいずれは遠い昔の夏の夜の思い出となるでしょう。
さて、そのタブーとなるところは?。
①家屋の敷地内に立ち入らない
単純な不法侵入です。
敷地外から網を伸ばして家屋の壁に付いた虫を採るのも止めましょう。
外壁に付いてた虫くらいが許容範囲では?。
②家屋の壁や特に窓を懐中電灯で照らさない
民宿のまさに宿泊している部屋の窓を照らしたバカップルが居ましたね。
③私有物に触れない
玄関前の植木鉢を動かしたり、その鉢の裏を見る為に引っ繰り返して見るバカが本当に居ます。
④カブクワがよく落ちるポイントだからと1カ所で粘ること。
これは誰も来ない、来てないなら構わないが、他の採集者が訪れる場所でこの行為は張り付きと言ってマナー違反となります。
実例として一つのポイントに縦一列にA~Eまで5つの光源が狭い範囲にあったとします。
先行者はAから順番に見ていってEまで見終わったら後行者 にその場を譲って他の場所に行くも良し、更に後から人が来てなければ後行者がその場を離れたら再びAから見回ってもよしです。
後行者は到着したときに先行者がAを見ている際はA~Eいずれに入ってもそれは割り込みと言ってマナー違反となります。
先行者が見終わるのを待って後に入るか諦めて別な場所に移動しましょう。
山の商店街など広く沢山の光源がある場合は上記のような限りではなく順番待ちはしなくてもよいでしょうが、例えば他の人が見ようと近寄って歩いているところを走っていって先に抜いてしまうのは横取りと言います。
街灯廻りの人は地元民からすれば気味の悪い存在、鬱陶しい存在に見えることでしょう。
変質者かもしれないし、自販機荒らしに見えても仕方ない。
これはもし自分がカブクワに興味の無い地元民だと置き換えてみれば分かると思います。
自分の家の敷地の角に立つ街灯の下に毎夜2時間も黙って網を持った男が立っている・・・気味が悪いに決まってる。
これを少しでも解消するには挨拶の励行とマナーを守って地元の方と仲良くすることがまず大事だと思う訳です。
地元の方とも、ライバルであってもすれ違ったら『今晩は』と挨拶するのがその第一歩なのでは?(しかし、シャイな東北人はこれが中々できないんだろうけど・・・)。
【ライトトラップ編】
ライトトラップは最初の機材を揃えるのにそれなりの出費を要しますがそこをクリアすれば誰でも手軽に採集を楽しめる有効な採集方法です。
しかしながら多くの場合、街灯の明かりなど及びもつかない光量で虫を引き寄せる為、付近の環境に与える影響も大きいことからトラブルにも繋がりかねません。
これから始めようとする方と独学でこの道に入った方は以下を読んで参考にして頂ければ有り難く存じます。
『場所の選定』
①事前の周辺環境の確認
付近に影響を及ぼす民家、施設、田畑、家畜、養蜂場が無いか予め確かめておくことが重要。
これらの場所は予め関係者に許可を得た場合を除いてはやってはいけない。
許可を得たとしても双方に不測の事態が起きる可能性があるのでできる限り避けるのが賢明と言える。
【実例】
・虫を呼ぼうと狙った山とライトの間に田んぼを挟んで掛けたため毒蛾で田んぼの稲を全滅させ裁判になった。
・養蜂場の近くでライトを炊いたためミツバチの天敵を呼んで巣を全滅させてしまい3百万円請求された(養蜂家は花の蜜を求めて基本、季節ごとに移動するものであるので、昨日いなくても今日移動してきてるかもしれない。特に初めての場所では最低半径3百メートル内に養蜂場が無いか確認すべきである)。
・飲食店兼土産物販売店(昼のみ営業)の駐車場で夜間ライトトラップを無断で行い踏みつぶした虫を掃除もしなかったことでトラブルになった。
②他の採集者も居るということ
ライトトラップの採集者で山が溢れており入る場所がないというケースがある。
そこで敢えて先行者の間に入りたい場合次の手順を踏むことが無用のトラブルを回避し、採集成果にも悪影響を及ぼす可能性が若干少なくなる。
・先行していた両端の採集者に場所の権利があるので自分がその間に入って良いか同意を得る(同意を得られない場合はその場所を諦めて別な場所に行く)。
両端の採集者が使用するライトのワット数を尋ね、自分がワット数の異なる機材を持っていたら両端の方の機材と同数以下を使用するのが望ましく、更に両端の方と協定を結んで光軸の角度を少なくとも35度以下にすることでお互いの光の干渉を下げることができる(誰かがこれ以上に光軸を上げると当日の天候等にもよるが最大7~8割採集数が減る現象が起こりやすくなる)。
間に入座する場合、両端の採集者との距離は各最低500メートルほど離れていることが望ましく、またこの距離を保っていたとしても両端の方の機材が1,000ワットクラスならば技術や装備が無い場合入らない方が賢明だ。
③車や人の往来
車両の通行に影響を与える可能性のある場所はなるべく避け、
もしも車両が来たらその都度遮光すること。
④光の当て方
光軸の外の光だけでも相当の範囲の虫を誘引する力があるのだが、何故か光軸を上に向けたがる人がいる。②でも述べたがこれは干渉を引き起こし周囲の採集者を巻き込んで共倒れになる原因になり非常に迷惑である。
曇天で雲が低い日に1,000ワットクラスを上に向けたら少なくとも半径1キロ~2キロの人に悪影響を与えていると考えて間違い無い。
このようなやり方に敢えて拘り、やりたいのであれば誰もいない山に行くべきだと思います。
⑤張り付き
車中泊等で2~3日ならまだしも、場所取りで競争がおきるような所で一週間近くも同じ場所を連続で占拠するのは街灯廻りの項と同じく張り付き行為です。
⑥自然にある邪魔な物を勝手に加工すること
採集をやり易くするため現場を整える人がいるが、草を刈るならまだしも木を切るのは環境を変えてしまうので止めた方が良い。
これが私有地で植えた木ならすぐにトラブルになるでしょう。
ましてそこが特別保護区域内なら草を踏むことも石ころ一つ拾うことも許されてません。
⑦場所を教えること・知ること
新しいポイントを捜す際は
A…自分で見つける
B…人に教えて貰う
C…他人がやっている所を盗み見る
のいずれかで、本来は自分で見つけるのが一番でしょうが眼力が必要になるし手間も掛かる・・・ということで実際は教えて貰うか盗み見のいずれかになるのが普通でしょう。
この際の注意をひとつ。
どうでもいい場所以外はその人の性が知れない内は教えない方がいいです。
教えられた方はその場所に入る時は教えてくれた人に断りを入れ了解を貰うのが本来の筋であります。
盗み見られるのは真っ暗な中で明かりを焚いているのだから大概の場所では防げないのでどうしようもありません。
この場合で大事なのはその場所の攻め方等をなるべく悟られないようにすることかと思われます。
しかし、堂々と?その場所まで来る人もいます。
この場合訪問する側には守るべきルールがあります。
まず、見ず知らぬ他人の屋台を尋ねたならば自分の氏素性と来訪目的を告げ相手の了解を得ることです。
『今晩は!青森からオオクワ採集に来てます鈴木と申しますが少しだけ見学させて貰って宜しいですか?』と言うのが当たり前で、了解を得られないなら失礼しましたと早々に立ち去るのが礼儀です。
また、自分もそこでやりたくなったら先行者に聞いて了解を求めるべきです。
『自分もここでやってみたいのですが明日はここに来られますか?来られないなら私が明日ここに入ってもいいですか?』と了解を求めるのが筋です。
この場所は誰のものでもない!知った以上は早い者勝ちだという態度が見えるようならそれ以外の情報は出さないほうがいいでしょう。
そんな人の訪問を受けた場合は『採集に集中したいので済みませんがご遠慮いただけますか?』とでも言って退散を促した方がいい。
このポイントのことについては意外にも後々仲間割れやトラブルの種になることが多いので慎重に対応したほうがいいと思います。
私の敬愛する鉄砲撃ちK氏などは未だに私が教えたポイントに入る際には店を尋ねてきていつからいつまでの期間、あなたの狩り場に入ってもいいかと手土産持参で現れます。
私の仲間も今日はどこに入る?とか誰それにあそこをやらせてみたいんだけど?と連絡を取り合うので揉めることがありません。
少し気を使うけどこういうことが大事なんだと思います。
信じられないかも知れませんが、見ず知らずの他人の屋台に突如として挨拶無しで現れて、勝手に屋台の回りに落ちた虫を拾う人もいます。
こういう人には丁重に退場頂きましょう・・・。
『当たり前ですが』
⑧ゴミは持ち帰る!
意外に守られてません。
その場所でライトトラップをするのにゴミを捨てないは当たり前ですが掃除をして帰るのが暗黙の了解でお約束になっている場所などもあります。
知人に教えてもイイかと思った場所があっても、前述の①~⑦を含めこれを守れない人なら教えない方がいいでしょう。
また、出物腫れ物所嫌わずといい、自然現象は致し方ないものの獲物が落ちる場所に野糞垂れるのはご勘弁頂きたい!。
取り敢えず私が見聞きしたことを羅列してみました。
全ての人にこれを守れ!と強要するわけではありません。
しかしながらライトトラップ禁止になっている又はこれからなりそうな地方自治体は確実に増えており、それが広がりそうな気配が漂っています。
前述のように採集愛好者人口は確実に増えているのに禁止区域が増えれば単純に禁止されていない場所に人が集まるのは自明の理でしょう。
そしてその中にはそういうトラブルを起こした人も混じる訳です。
この趣味を長く楽しみたいのであればそうならないための精神・方法・行動を考えるべきだと思います。
ある町村ではライトトラップは申告制になっているところもあると聞きました。
有料かどうかまで調べてませんが、自分はどこでやると届けて、届けて許可を得た印として旗を持たされる。
採集中はその旗を掲げていなければならず、終わったらその旗を返しにいくというシステムみたいです。
多少窮屈に感じるかも知れませんが恐らくは申告時にどこの誰であるかと連絡先などを記入するようになっているであろうから、受け入れ側としては妙なことをした者には注意喚起を促すことが出来るし、管理することが可能な方法であると言えます。
例え有料であっても禁止よりは全くマシでしょう。
我々は今この件についてよく考えるべきだと思っています。